レーザーを照射された発毛細胞はすぐに死ぬわけではなく自殺を選んでいる!?アポトーシスとは・・・
準備

レーザーのエネルギーを破壊したい細胞に短い時間で照射することで狙った細胞のみの温度を上げて熱変性させることが出来ます。
これをSP(Selective Photothermolysis)理論といいます。
このようにして熱にさらされた細胞はその後どうなるのでしょうか。
医療脱毛のレーザーを照射すると発毛に関わる細胞はその瞬間に死ぬわけではありません。
実は発毛細胞は数週間以上かけて死ぬ準備をしているのです。
今回はモアナレーザークリニックの医師が発毛細胞の死について解説します。

発毛に関わる細胞達の涙ぐましいアポトーシスという死に方

人の体は細胞が増えたり、減ったりすることで上手くコントロールされています。
人の体は常に同じ状態を保つように機能しています。
これを恒常性といいます。
例えば、そこにいるべきではない細胞がそこにいた場合、場違いなその細胞は自ら死を選びます。
人の手の形が5本指に分かれているのも、指と指の間に居た細胞が自ら死を選んでくれたからです。
複製エラーでがん細胞が生まれてしまった場合、がん細胞も自ら死を選びます。
1日に5000個ほどのがん細胞が生まれているとされていますが、通常はこれらの細胞もすぐに居なくなってくれています。
このようにして人は細胞達の死によって支えられているのです。
人間という細胞の集合体全体のために、個々の細胞が自ら死んでくれているというのは不思議な現象だと感じます。
このようにして細胞が自ら死んでくれている現象をアポトーシスと言います。

脱毛レーザーを照射された発毛細胞には熱変性が起こります。
これをきっかけとして発毛細胞でアポトーシスが始まります。
アポトーシスは予定された死です。
照射された発毛細胞達は周りに迷惑をかけずに、綺麗に死ぬために身辺整理を始めます。
細胞の収縮、細胞膜のブレビング、染色体の凝縮、核の断片化、DNAのラダー形成、そしてファゴソームによる細胞の貪食などが起こるのです。
このようにして上手に死ぬことが出来ると周りで炎症というお片付けが必要ではなくなります。
最低限のダメージで発毛細胞だけが綺麗に死んでくれているのです。
レーザーによって永久脱毛ができるのはこのような発毛細胞の涙ぐましいアポトーシスによって支えられていたのです。

ネクローシスという無念な死に方

レーザーの出力をかなり強くしてみたらどうでしょうか。
永久脱毛に必要なレーザー出力は適正値が決まっています。
それを大きく超過したレーザーエネルギーは細胞達を大きく傷付けてしまいます。
このようにして突然制御できない大きなダメージを受けてしまった発毛細胞には身辺整理をする時間はありません。
細胞の中で大切に蓄えていた物をぶちまけるように細胞の外に吐き出してしまいます。
あっという間の死です。
これはネクローシスという細胞の死に方です。
細胞達は不覚で無念だったことでしょう。
これによって細胞の核をはじめとする細胞内小器官を構成する膜の崩壊、細胞の膨化、細胞膜の破壊などが起こります。
周りの細胞達も大騒ぎです。
ゴミ掃除を行わなければなりません。
これは炎症という現象に繋がります。

皮膚では痛みや赤みが出て熱を持ちます。
このように細胞の死に方にもアポトーシスとネクローシスという種類があるのです。
その他にオートファジーやエントーシスなどの細胞の死に方もあるのですが、また機会がありましたら解説します。

脱毛レーザー照射後に細胞を観察してみよう!!アポトーシスは起きているのか!?

レーザー照射された細胞は本当にアポトーシスしているのでしょうか。
これは皮膚の一部に小さな穴を空けて切り取って来て観察すれば分かります。
ハードルが高い方法ですが、医学の発展のためには誰かにご協力頂くしかありません。
今回は日本医科大学客員教授/東京医科大学兼任教授の尾見 徳弥先生の文献のご紹介をしましょう。

ダイオードレーザーの熱破壊式(静的)モードと蓄熱式(動的)モードによる臨床的、病理的研究

『Static and dynamic modes of 810 nm diode laser hair removal compared:
A clinical and histological study』


この研究では810nmという脱毛に最適な波長のダイオードレーザーを使用して、脱毛の効果と病理的変化を観察しています。

使用するレーザー機器は定番のAlma社のソプラノアイスです。
20歳から57歳の男性12人と女性13人の合計25人にご協力頂きました。
蓄熱式のモードと熱破壊式のモードを左右の脚で使いわけて1度照射します。
そして、脱毛効果と病理学的変化を観察しています。

1cm2辺りの体毛の数の変化ですが、熱破壊式では照射前が16.04本で照射1カ月後に9.40本、3カ月後に10.08本になっています。
熱破壊式の1回の施術で3カ月後には体毛は62.8%まで本数が減っています。

蓄熱式では照射前が17.02本で照射1カ月後に9.16本、3カ月後に10.08本になっています。
蓄熱式の1回の施術で3カ月後には体毛は59.2%まで本数が減っています。
熱破壊式でも蓄熱式でもおよそ40%の体毛が1回の施術で減っているということです。

別の文献で5回の照射でおよそ90%の体毛が減ることが分かっていますので、施術回数の参考になります。
体毛は太いものからエネルギーを多く吸収していきます。
そして、細い体毛ほど脱毛の難易度が上がって行きます。
レーザーを照射するとその時点に生えている体毛の40%程度が無くなって行くイメージでしょうか。
そして、蓄熱式でも熱破壊式でも治療効果はほぼ同じような結果です。
難易度が高くなる分をαとすると・・・
1回目の照射で体毛の本数が0.6倍まで減って、2回目の照射では0.6×(0.6+α)ってイメージでしょうか。
3回、4回、5回と繰り返すと本数は0.1倍になります。
この研究からはそのようなことも推測出来てしまいます。
5回の全身脱毛をすると太い体毛から無くなって行き、本数にして10分の1程度になります。
1回ごとに体毛の本数は60%強に減って行きます。
これは足の体毛のお話です。
男性のヒゲやVIOはまた違う結果になるかと思います。
やはりVIOなど太い体毛で脱毛効果を出すにはある程度の回数を無理なく行う方が安全ですよね。

照射直後と1カ月後の毛包組織を観察してみよう!

病理的にはどうだったのでしょうか。

HE染色照射直後

レーザー照射直後のHE染色です。
この写真は発毛に関わる細胞がいるバルジ領域です。
Sとマークされている領域にいるピンクの細胞達はランドマークとなる皮下腺です。
蓄熱式レーザーではこの領域にダメージを与えることで永久脱毛に持って行くのです。
緑色の矢印がレーザーを照射された体毛です。
紫色に染色された体毛が壊れているのが分かります。
毛包全体を観察すると内部が拡大しています。
そして、黒い矢印の部分に空洞があります。
白い矢印の部分では細胞の同定が出来ないほど壊れています。
毛包の外にも浮腫みがあるのが分かります。
これが適正なエネルギーでの熱変性です。
毛包を含む周辺組織のみにダメージが届いています。

p53染色1カ月後

蓄熱モードでレーザー照射後1ヵ月経過した部位でのp53染色の写真です。
毛包が嚢胞状に大きく拡大して機能しなくなっています。
矢印部分にオレンジ色に染色されているのがp53というタンパク質です。
このタンパク質はアポトーシスを調整しているタンパク質です。
P53が多く観察されるのはアポトーシスが始まっている証拠となります。
また、ネクローシスに伴う炎症は今回の患者さまでも臨床的にも観察されていません。

このように発毛に関わる細胞だけを狙ってレーザーを照射して発毛に関わる細胞のみを熱変性させて、アポトーシスを引き起こしているのがレーザー脱毛という手法なのです。

【この記事はモアナレーザークリニックの代表医師が自ら執筆しました。】
私の専門はAGAなどの発毛治療と手術麻酔です。
毛を生やす治療と痛みをなくす治療を得意としています。
痛みを最小限にしつつ発毛細胞を居なくするにはレーザーの使い方にコツがあります。