総院長の田坂洋介です。
今回は一見、脱毛と直接関係のなさそうなタリウムについて執筆します。
実は昔は酢酸タリウムを使って脱毛していたって知っていますか?
19世紀から20世紀初頭のお話です。
ビックリしますね。
タリウムは毒性が非常に高く危険です。
今は安全に脱毛できる時代となりタリウムは使われなくなりました。
その後のバブルの時代頃では針脱毛が主役でした。
そして、フラッシュライトの脱毛が流行り、熱破壊式レーザーが主役となりました。
ここ最近はより安全な蓄熱式レーザーを使った脱毛が普及してきています。
タリウムってなに?
タリウムは工業用途や農薬などで使われる有毒な金属元素です。
1898年、パリのレイモン・サブローにより、タリウム塩に脱毛作用があることが発見されました。
このため1950年代に至るまで、頭皮の皮膚病を治療する際に用いられる標準的な軟膏となったようです。
面白いのは、戦後の日本でも脱毛剤として市販もされていたようです。
『ツヤツヤクリーム』や『酢酸タリウムクリーム』と呼ばれていたようです。
時代を感じますね。
1964年に出版された書籍『不良』(著者:石原慎太郎)には、「脱毛を助ける薬剤」として酢酸タリウムが紹介されており、その中で「ツヤツヤクリーム」が登場します。
かなり危険な脱毛剤だったことでしょう。
以下、その書籍の一部を引用します。
『東京では「脱毛を助ける」薬剤がある。酢酸タリウムという物らしい。凄いもので、ヘアープラスを使ったところで、わずか四、五本抜けただけだった人が、酢酸タリウムを塗ると、たちまち髪の毛が、剥き出しの頭皮の上に転がるという。かなり怖ろしい物だが、二三年も塗り続ければ、永久に髪の毛を抜くことが出来るそうだ。ツヤツヤクリームという商品名で出ているらしい。』
わざわざ髪の毛を抜くために使っていたのでしょうか。
昔の東京って凄いところだったんですね。
参考: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
参考: 『不良』(著者:石原慎太郎)
タリウムは危険なのでもう市販されていない!!
タリウムは強力な毒性を持つため、過去にはタリウムを使用した事件が発生しています。
ソビエト連邦におけるタリウム毒殺事件
1970年代から1980年代にソビエト連邦でタリウムを使用した毒殺事件が発生しました。
ソビエトの諜報機関がタリウムを使用した暗殺を行っていたとされています。
タリウムによる毒殺は症状が顕著に現れるまで時間がかかるため、被害者を確実に殺すことができたとされています。
日本におけるタリウム中毒事件
1960年代から1970年代にかけての日本でタリウム中毒事件が相次ぎました。
特に有名なのは「タリウム少女」と呼ばれる事件です。
16歳の女子高生が、自分自身にタリウムを投与して自殺したとされています。
また、別の事件ではタリウムを混入した飲料水が販売されてしまい多数の人が中毒症状を起こしたことがあります。
アレクサンドル・リトヴィネンコ中尉の毒殺事件
2006年にロシアの元スパイであるアレクサンドル・リトヴィネンコ中尉がイギリスでタリウムを使った毒殺事件により死亡しました。
事件の背後にはロシア政府が関与しているとの疑惑があり国際的な注目を集めました。
タリウム中毒になるとどうなるの?
具体的な症状を以下に列記しますが、個人的に注目しているのはやはり脱毛症です。
徐々にタリウム中毒になった場合に毛髪も抜け落ちると思われます。
その場合は頭部や体毛全体に働きかけるので、びまん性(全体的)の脱毛症になることが多いと考えられます。
通常のAGAではM字部分や頭頂部などに症状が強いことが多いのですが、頭部全体的な症状となると推測されます。
体毛ももちろん抜け落ちるのではないでしょうか。
その他の症状を列記しますが、我々医師でも症状だけでタリウム中毒を疑うことはかなり難しいと感じます。
やはり脱毛は蓄熱式の安全なレーザーを使用するのが絶対に良いですね。
腹痛や嘔吐
タリウム中毒の初期症状として、腹痛や嘔吐が現れることがあります。これは、タリウムが胃や腸に直接作用して炎症を引き起こすためです。
下痢
タリウム中毒によって、下痢が起こることがあります。下痢によって、水分や電解質が失われ、脱水症状を引き起こす可能性があります。
神経症状
タリウム中毒によって、神経症状が現れることがあります。具体的には、手足のしびれ、痺れ、痙攣、筋肉の弱化、視力障害、聴力障害などが報告されています。
皮膚症状
タリウム中毒によって、皮膚に症状が現れることがあります。具体的には、皮膚の脱毛、皮膚炎、湿疹、かゆみ、皮膚の色素沈着などが報告されています。
心臓症状
タリウム中毒によって、心臓に影響を与えることがあります。具体的には、不整脈、心拍数の変動、心筋梗塞などが報告されています。
執筆者:医師 田坂洋介